愛刀に拵をつけたいが、何をどう選んだらいいんだろう?

晴れてお気に入りの日本刀を入手することができたものの、この御刀に合った拵をつくるにはどうしたらいいんだろう? そんな悩みをお持ちの方に向けて、刀身とハバキを基準にして適切な各部位の寸法を逆算する方法をご紹介します。

尚、日本刀の拵にはさまざまな様式がありそれぞれに独特な特徴があるため、ここで紹介する方法が一部当てはまらないことがあります。 一般的・標準的な考え方として参考にしてみてください。

鞘の長さ=刃渡り+5cm

鞘の長さ

“+5cm”の内約は2つの要素で構成されています。1つはハバキの高さで、もう1つは鞘の内に設けられる切先の先の余白です。

鞘の内には刀身だけでなくハバキもすっかり収まりますので、鞘の長さを考えるには御刀の刃渡りにハバキの高さを加える必要があります。 ここでのハバキの高さとは、ハバキ全体の縦寸法ではなく棟方の呑込から台尻までの高さ寸法を指します。 このハバキの高さは大体2cm程度(※1)になることが多いため、概算2cmとして考慮します。

次に鞘の先の余白です。
人間が足に合った靴を選ぶときにはつま先から少し余裕をもたせるように、鞘の内でも切先の先に多少の空きが設けられます。 この切先の先の空きは特別な指定などがない限り、1寸(約3cm)になるのが通常です(※2)。

これら鞘の長さを構成する要素を鞘の先から順に並べると、
「切先の先の空き3cm」+「御刀の刃渡り」+「ハバキ高さ2cm」
となり、「鞘の長さ=刃渡り+5cm」になります。

例として刃渡り72cmの御刀だと、72+3+2=77 鞘の長さは77cm程度になるだろうと見込むことができます。

尚、この計算は日本刀諸工作のように御刀合わせでつくられる鞘にのみ通用するものです。 模擬刀や当店の型鞘のような規格物の合わせ鞘の場合、この計算よりも長い鞘になることがあり参考にはなりませんのでご注意ください。

※1

ハバキ全体の高さは御刀の元幅の8割程度、呑込の深さは元重と同程度とされていますが、御刀の姿やハバキを製作する白銀師さんの感性によって微妙に異なります。 厳密な計算をしたい方はハバキ実物の呑込までの高さを計測してください。

※2

切先の先の空きは単なる余白ではなく、納刀時に刃先が鞘の内に当たり削れて生じてしまった細かな木屑を溜める役割もあります。(関市では屑溜まりと呼んでいます)

柄の長さ=鞘の長さの3分の1弱

柄の長さ

拵全体のバランスを考えたとき、鞘の長さに対して柄の長さはこれくらいだと見栄えが良いという目安比率がありますが、その比率は一定ではなく職人の流派や職人個人の考えなどによってバラつきがあります。 さまざまな方の意見や文献などを総合すると、鞘の長さに対する柄の長さは「3分の1かそれよりわずかに短め」を目安にするのがとりあえずの良い落としどころだと感じます。

考え方としてもっとも多かった比率は「鞘の3分の1」ですが、古い作法や掟にならった製作に携わる職人さんほど「鞘の3.5分の1」という目安で仕事をされている傾向が強いように思います。 そのためこの間をとった「柄の長さ=鞘の長さの3分の1弱」を目安に考慮すると、大きく外れず不自然になることは少ないと考えています。

例として鞘の長さ77cmだと、77÷3=25.7 柄の長さは25.7cm弱(約8寸5分弱)となるので8寸3分程度だろうかと見込むことができます。

ただ柄は、握って刀を操ることが本分の重要な部位ですから、目安にとらわれて握りづらくなってしまっては元も子もありません。 とくに実用の御刀の場合は「鞘の長さの3分の1弱」を参考として、十分に握りやすいことを第一に検討されることをおすすめします。

武道の流派や特定のお国拵では、ここでご紹介する目安とはまったく違う柄の長さを奨励されることがあります。 通常とは異なることがそうした拵様式の特徴ですから、その場合は個別の特徴にしたがって検討をしましょう。

縁金寸法=ハバキ寸法+5~6mm

縁金寸法

何か特別な理由がない限り、鞘師さんは柄口に付く縁金と同じ寸法で鞘口をつくります。

この鞘口の内にはハバキが収まりますので、ハバキよりも小さな縁金で鞘をつくることができません。 最低でもハバキより大きく、鞘口に十分な強度を確保できる程度の肉厚寸法が必要になります。 かといって、ハバキより大きすぎる縁金では鞘が太くなり過ぎて不格好になってしまいます。

見栄えと強度を損なわず適切な姿の柄や鞘を入手するには、ハバキ寸法(※1)に5mmを加えた寸法の縁金を選定することをおすすめします。 この5mmとは鞘口の肉厚で、刃方と棟方それぞれ2.5mmの値です。

例としてハバキ寸法35mmだと、35+5=40 適する縁金寸法は40mmだと分かります。

居合稽古や試斬などに使用する実用の拵ですと、見栄えよりも耐久性を重視したご依頼をいただくことも多いです。 その場合には刃方・棟方の肉厚をそれぞれ3mmとしてハバキ寸法+6mmの縁金をおすすめしています。

ただ縁金寸法が大きくなることは同時に柄が太くなることにもつながりますので、手に合わず握りづらくなってしまう可能性があります。 実用の拵が使いづらくては意味がありませんので、縁金寸法=鞘口寸法の掟を無視し、縁金寸法よりも鞘口をわずかに太くすることで見栄えを多少犠牲にして耐久性を確保する製作も行っています(とくに居合作の場合)。

※1

ここでのハバキ寸法とは、ハバキの踏ん張りがもっとも広がった台尻の寸法を指しています。

鐺金具の寸法<縁金の寸法

鐺金具の寸法

一部特定の時代拵やお国拵などで例外はありますが、日本刀の鞘は鞘口から鞘尻に向かって緩やかに細くなる姿が一般的です。 鞘口の寸法は「縁金寸法=ハバキ寸法+5~6mm」の項で縁金寸法と等しいと触れました。 そのため鞘尻を補強する鐺金具を検討する場合、不自然でない一般的な姿の鞘とするには縁金寸法よりも小さな鐺金具を選択しましょう。

ただし縁金と鐺金具の寸法差が大き過ぎるのもあまり良くありません。 金具の形状にもよりますが、概ね縁金寸法より1~3mm程度小さな鐺金具 を目安にすると自然な姿の鞘になります。

例として縁金寸法40mmだと、40-1=39、40-3=37 適する鐺金具の寸法は37~39mm程度だと分かります。

尚、御刀に合わせて製作する一作鞘で鞘尻に鐺金具を付けない場合は水牛の角製の補強が付くことが一般的です。 この水牛の角製の補強はとくに寸法の指定をせずとも鞘師さんがバランスの良い寸法に仕上げてくれます。

鍔の寸法=縁金寸法の2倍

鍔の寸法

「大きめ」「小さめ」のような比較表現をするときにはそれらの基準となるものが必要になります。 日本刀の拵に付く鍔の寸法(縦寸法)だと、縁金寸法の2倍程度になることが一般的です。

例として縁金寸法40mmだと、40×2=80 鍔の縦寸法は80mm程度が標準だと分かります。

これを基準として大きめや小さめの好みを反映すると良いでしょう。

このように刀身とハバキの寸法が分かるだけで、その御刀に適した拵寸法を知ることができます。

注意していただきたいのは、ここで紹介した拵寸法はあくまでも御刀に適したものであり、使用者の身体に適したものではないということです。 使用者に適した拵という観点で考慮すれば、鍔は寸法よりも重量のほうが注目度が高く、柄の長さは使用者の手の大きさなどが検討に必要な情報になってくることでしょう。 しかしそうした検討によってできた使用者に適した拵が御刀に適した拵だとは限りません

刀身とハバキから拵寸法を逆算する術を見につけることができれば「御刀に適した拵」が自身に合っているかどうかを判断することができ、御刀そのものが自身に合っているかどうか知ることに繋がります。
今後の検討にぜひお役立ていただけると嬉しいです。

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