七夕に想いを込めて

本日7月7日は七夕の日です。旧暦の7月7日の夜に牽牛(ひこぼし)と織女(おりひめ)がカササギのつくった橋を渡って天の川で合うという中国の伝説が有名です。

人々は物事が成就するようにと、この夜に庭に棚をもうけて金、銀、果物や野菜などを供えて星に祈りました。 この祭りを乞巧奠(きっこうでん)といって日本では奈良時代ころから朝廷の年中行事の一つとなり、以来、多少の盛衰はあったものの平安・鎌倉・南北朝・室町をへて貴族や武家の間でも行われるようになったといいます。 江戸時代には身分の上下に関わらずにぎやかに行われ、民間では笹竹に短冊と五色の紙を飾り、これに思うことや願いごと、和歌などを書いて門に立てました。これが現在の各地で見られる華美な七夕行事に発展しました。

主題を省く留守模様

七夕といえば、土方歳三佩刀の鍔として広く知られる七夕図木瓜鍔があります。

この鍔には伝説の主役である牽牛や織女が見られず、石目地に木の葉と紙片しか描かれていません。これは
たなばたのと渡る舟のかぢの葉に いく秋かきつ露の玉づさ
天の河とわたる船の梶の葉に 思ふことをも書きつくるかな
という和歌の心を図取りしたもので、天の川から落ちる雫の受け皿とされるサトイモの葉に溜まった夜露を集めて墨をすり、その墨で梶(カジ)の葉に和歌や願いごとを書く風習にちなんだ図案です。

このように物語の登場人物を描かず、象徴となる小道具だけで物語を連想させる模様を留守模様(るすもよう)といいます。 主題となる人物さえあえて省き不要なものを限界まで除いて残った要素だけで物語の情景を暗示することで、逆に主題の意図がより明確になり、読み取り手のこころにより深く響かせる効果があるように思います。

この留守模様は刀装具のみならず様々な工芸品に用いられてきました。 たとえば誰もが一度は目にしたことがあるであろう尾形光琳作の国宝「燕子花図屏風」も伊勢物語のある一節を表現したものといわれています。

『燕子花図』(根津美術館所蔵)
尾形光琳作『燕子花図』(根津美術館所蔵)

拵の製作を検討するにあたって、拵全体をつかって何らかの留守模様を表現するのも面白いかも知れません。 自分や仲間たちでした分からない事柄を、鍔・縁頭・目貫で表してみるのはいかがでしょうか。拵を検討する楽しみ方のひとつとなれば嬉しいです。