差表は黒、差裏は赤の昼夜造り
先日、ものの本を読んでいたところ興味を惹かれる一文を発見しました。
江戸の頃、帯刀の資格のない者が威儀を整えたり武器を持っていることを装うだけの護身のための拵があったそうです。それは浮世拵と呼ばれ、鞘の差表は武士階級に配慮して地味な黒塗りですが差裏は派手な朱塗りなどにしたということでした。
この文中からすぐに以前ご依頼をいただいた「長野県U様 居合刀特注製作(陰陽の拵)」を思い出しました。 当該事例は、表裏で明暗の異なる色合いを配したさまから陰陽拵と号したものです。
ご依頼者様からは以前より何か面白い案があれば教えて欲しいとご相談をいただいていたことから表裏で異なる塗りの鞘をご提案したところ、非常にお気に召していただき、実際にご注文をいただいたのが今回ご紹介する事例です。 もともと黒呂塗だった鞘の居合刀をお預かりして表裏で異なる色に塗直しを行いました。
実際の「浮世拵」は主に吉原通いの町人などに愛用されたようで、柄は柄糸を巻かず金属ではなく象牙でできた鍔などを掛け本身ではなくツナギを入れていました。 本刀はもともと陰陽の考えに拠った居合刀だったため、表裏で異なる色使いという共通する特徴のみを活かしました。
差裏は朱というより明るめの暗朱に近い色合いです。 差裏の朱よりも差表の黒の方がわずかに大きく、拵を差表正面から見たとき、鞘の稜線に朱がチラついてしまわぬよう工夫されています。
その他、拵全体の詳細につきましては「長野県U様 居合刀特注製作(陰陽の拵)」をぜひご覧ください。またご依頼者様のInstagramでもきれいな写真をご覧いただくことができます。
製作内容詳細
※表示する価格は受注当時のものです
- 価格
- 20,000円台
- 鞘塗
- 塗直し、昼夜塗(差表は黒呂塗、差裏は朱呂塗)
- 栗形
- 丸みを帯びたものに交換、上シトドメ/金仕上げ付き
お客様の声
お世話になっております。
すごいの届きました!
本身の時代物には勝てないと常々思っていましたが、時代物超えた感すらあります!
(中略)
物語が編めそうな居合刀ですね。
丘場所で何やら大騒ぎ、環の中心には抜刀した身なりの良いお侍と、遊女を庇うようにして立つ眼光鋭い町人風情だが帯刀の男が対峙。
侍、「そんな浮世拵えの飾りもんで何をしようってんだ。無礼な!切り捨ててくれるっ!」
男、目は離さずに。「お侍さん、試してみなさるかい?」
みたいな感じです。
今回も完成までナビゲートしていただきありがとうございます。
また機会がございましたらお願いします。
牛丸 圭也
私に浮世拵を現代に再現できる機会をくださってありがとうございます。誇りに思います!