居合刀(模擬刀)の特注製作について、刀身を「 日本刀(真剣)らしく」したいというご相談を非常に多くいただきます。 その解決策として、刃先を通常よりもできる限り薄くしたり、棒樋の先や止めなどに装飾工作を加えるなどの方法があります。
これに対し、柄や鞘などの外装について「
日本刀(真剣)らしく」というご要望はあまりいただきません。
せっかく模擬刀身を日本刀らしく見せるのであれば、
柄や鞘にも同じ工夫を凝らしてみてはどうでしょうか。
とくに
納刀時の外観の半分以上の面積を占有する鞘について、
「日本刀(真剣)らしく」仕上がるポイントを1つご紹介します。
栗形
居合刀の鞘と日本刀の鞘でのもっとも明確な違いとして真っ先に挙げられるのが、 栗形の形状です。
居合刀の鞘では、
朴木でつくられた栗形が付けられます。特徴的なのは
刃方と棟方が面取りされている形状です。
ほとんどがやわらかな曲線で構成される鞘のなかにあってスパッとした印象の構造は少々馴染みにくく
悪目立ちしてしまう印象があります。
対して日本刀の鞘では、水牛の角(つの)でつくられた栗形が付くことがほとんどです。
刀部へご依頼いただく場合、水牛角の栗形は
全体に丸みを帯びた形状になります。
これにより全体の印象を崩すことなく、
品の良い印象に仕上げることが可能です。
尚、栗形の形状は居合刀のそれのように一定ではありません。どちらかといえばお国拵(おくにごしらえ)の特徴があらわれやすい箇所のように感じます。
たとえば九州の薩摩藩におこった薩摩拵では、栗形だけでも次のような特徴が見受けられます。
- 他国の拵の栗形よりも大きく、厚く、丸い
- 鞘下地の接地部分が直線でなく丸みを帯びている
- 下緒の通し穴が傾いている
お国拵とは
オシャレは足元からなどといいますが、こうした些細な点にも目を向けこだわってみるのも面白いのではないでしょうか。
特注製作フォームで指定いただける内容ではありませんが、事前に
お問合せフォームよりご相談いただければ対応させていただきます。
ぜひ検討をしてみてください。
余談
日本刀とその外装は日本が世界に誇る伝統工芸品です。 かつて日本刀の職人たちは、人間の目の錯覚さえも計算した寸法や形状を求め、卓越した色彩センスで素晴らしい作品を世に残しました。
それに対して模擬刀は、伝統工芸品の特徴を模した工業製品であるといえます。そのためその製造においては随所に効率化が図られています。 このようななかで、伝統工芸品としての良さをどの程度残してどのように簡略化し効率的にするかは模擬刀製造における永遠のテーマではないかと思います。
栗形の形状が画一的なのもそうしたあたりが要因だと考えますが、あまりにも効率に偏重してしまうと本来の良さを殺しかねません。 柄の下地に着せられる鮫皮(エイの皮)の代替としてプラスチックのものが用いられたり、鞘塗とはいえない単なる鞘下地への塗装などがその最たるものでしょう。
昨今では、断面が垂直対称になっている廉価の鞘が出回っているようです。
もともと鞘の断面は、刀身の形状に合わせて刃方薄く棟方厚くなっているのが通常です。しかし恐らく、製造工程上の都合によって、刃方も棟方もない単なる楕円状の鞘が出回りつつあると聞きます。 このような鞘に店主はまだ出会ったことがありませんが、「さすがにそれはないだろう」と感じます。 上下の概念があるものを無くしてしまうことは、何か大事なものを失ってしまう気がします…。
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