柄下地の完成(表裏)

切羽の位置決め(責タガネ)と柄下地の完成

刀部では製作事例ページにて皆さまよりご依頼いただいた御刀をご紹介しています。
それとは別に、お預かりをした日本刀(真剣)の拵がどのような状態からどのような結果になるか一連の工作進捗をご紹介していきます。
先日、日本刀諸工作のご依頼をいただいた愛知県A様より進捗紹介の掲載例とさせていただくことにご快諾がいただけました。

前回は製作前の前提状態として、ご依頼品の現状をくわしくご紹介しました。
第2回では、切羽の位置決め(責タガネ)と柄下地の完成をご紹介します。

切羽の位置決め(責タガネ)

まず拵製作の取り掛かりとして切羽に責タガネをしてガタをないよう位置を決めます。
責タガネとは切羽にタガネを打って茎穴をかしめ、ガタがないように調整をする工作ですが、本刀は茎の刃方の厚みに少々不具合がありました。

本来、日本刀の茎は茎尻から区(まち)に向かって緩やかに太く厚くなるテーパ状に整えられています。
つまり正常な状態であれば茎のもっとも太く厚い箇所に鍔や切羽が付くわけです。

茎の摩耗

しかし研ぎ減り・区送り・磨り上げなどの影響によって茎のテーパ状が崩れてしまう場合があります。
茎の途中がもっとも厚くなり、切羽や鍔の付く箇所の厚みが薄くなってしまうと鍔や切羽をガタなく調整することができなくなってしまいます。
本刀がまさにその状態でした。

切羽(1枚目)

ハバキ方に付く切羽は大きめのものにします。
茎穴の刃方と棟方に責タガネを行ってガタなく位置を決めたいところですが、茎の途中がもっとも厚いためどうしても空きが生じてしまいます。

鍔にはとりあえず責タガネも責金もしない状態で仮組みとします。
茎にはすでにひどい鍔ズレが生じているので、柄前の完成後、本組みするときに茎穴に木端を詰めて一時的なガタ抑止をしようと思います。

切羽(2枚目)

柄方に付く切羽は小さめのものにします。
1枚目の切羽と同様にわずかな空きが生じてしまいます。
ガタを完全に止めることはできませんが、切羽が刃方・棟方のどちらかに偏ることなく中心になるよう刃-棟方向の位置を調整することはできました。
職人にもよりますが、この切羽の位置を参考にして柄下地や鞘下地の中心が決められ、製作されます。

切羽の位置決めが終わったので、鞘師に柄下地の製作を依頼します。
鞘師は鞘だけを製作するのではなく柄下地・鞘下地など拵下地と呼ばれる木製の下地製作をすべて担当します。

柄下地

柄下地(表裏)

完成した柄下地です。
縁金・頭金の表面高さより柄糸の厚み分だけ細く薄くつくられ、柄巻が完了すると高さが揃うように計算されています。
また、今回のご依頼では柄地は短冊状の鮫皮を着せますので、鮫皮の分だけ鋤下げられているのが分かります。

柄下地と茎の接地面積が多いほどガタが少なくなるため、茎に掻かれた棒樋の形状に合わせて掻き入れされていることが柄口から分かります。

柄下地製作前後の比較

柄下地製作前後の比較

以前の柄前の柄長は約7寸でしたが、それよりも1寸(約3cm)長い8寸であらたに製作をしました。
全体的に伸びやかになり斬りつけやすそうな印象に仕上がっています。

次工程では2つの工作が並列で進みます。
1つは柄下地への鮫着せと柄巻、もう1つは塗師による鞘下地の補修と塗り直しです。
関市の職人たちの手によってこの拵がどのように生まれ変わるのか、次回もぜひご期待ください。