塗りの剥がれた鞘の修理
刀部では製作事例ページにて皆さまよりご依頼いただいた御刀をご紹介しています。
それとは別に、お預かりをした日本刀(真剣)の拵がどのような状態からどのような結果になるか一連の工作進捗をご紹介していきます。
先日、日本刀諸工作のご依頼をいただいた愛知県A様より進捗紹介の掲載例とさせていただくことにご快諾がいただけました。
前回は切羽・鍔の責タガネと柄下地の完成までご紹介しました。
第3回では、塗りがひどく剥がれてしまった鞘の修理をご紹介します。
パテで埋め、研ぎ出し、繰り返す。美しくなるまで。
塗りが剥がれてしまった部分にパテを盛り、研いで表面を平滑にします。そのうえから黒を薄く塗り、またパテを盛って研いで…という工程を繰り返して徐々に傷やへこみを埋めていきます。
「黒く塗るのは最後の一度だけで良いのでは?」と聞いてみましたが、薄く黒を重ねるほうが美しく仕上がるのだそうです。
同じ工程を愚直に少しずつ何度も繰り返して、くたびれた鞘に再び光が蘇ってゆきます。
工程の途中で栗形が外されました。
作業前には外さなくても完了できると見込んでいたものの、工程を進めるなかで下地の状態が思ったより悪かったため急遽取り外すことに決めたそうです。
このように状況に応じて柔軟に対応できることが腕の良い職人の証だと感じます。
また、修理を進めるなかで、この鞘にはもともと返角がついていたことが分かりました。このようなパプニングをきっかけに往時の姿に想いを馳せることができるのも古い拵の楽しみ方のひとつだといえます。
修理が完了した鞘は、まるで生まれ変わったようでした。
とくに塗り剥がれのひどかった鞘尻周りは、その痕跡をまったく感じさせません。
曲線で構成された小さな部位である栗形もきれいに仕上がりました。
木綿糸での諸捻巻
柄は鮫皮を短冊に着せ、木綿糸で諸捻巻です。縁頭はもともと付いていたものを流用し、目貫は烏賊と蛸の図。
ご予算の都合上、あまり費用が掛けられないことから最低限度の仕事となりましたが握り心地の良さそうな柄前が完成しました。
拵の完成
柄前の新調と鞘の修理を経て、古ぼけた拵が生まれ変わりました。
完成した拵一式は先日、ご依頼者様にお届けをいたしました。
すぐさまお喜びの声をいただくことが出来、いただいた感想を職人に伝えたところ、皆、照れくさそうな笑顔になりました。
良い仕事はすべての人にとって気持ちの良いものですね。
鞘が割れてしまったら
尚、今回の例では、鞘の劣化が進んでいたものの鯉口や鞘尻に割れは発生していなかったため、塗り直しによって修理を完了することができました。
しかしもし鞘に割れが発生してしまったら、パテ埋めのような修理だけでは強度は元に戻りません。
とくに鯉口に割れが生じてしまった場合、塗り直しをしてもまたすぐに同じ場所が割れてしまいます。
もし鯉口が割れてしまったら、その部位を物理的に補強することをおすすめします。
籐を巻いたり部分的に鮫皮を着せることで、割れの再発を防ぐことができます。
愛着のある鞘の修理をご検討の方は、ぜひお気軽にご相談ください。
お待ちしています。
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