柄前の菱目の数え方
日本刀の柄には糸や皮で柄巻がなされます。その巻き方の種類は多数ありますが、糸を捻る捻巻と糸を摘む摘巻がとくに多く目にする柄巻ではないしょうか。柄巻のされた柄前は菱形に空きができ、そこから柄下地に着せられた鮫皮が覗きます。
柄前を新たにおつくりするご依頼をいただくときにはその長さのご希望を伺います。ほとんどの場合で「8寸5分」や「26センチ」と定量的にご指定をいただきますが、なかには柄巻の菱目の数を長さの代替としてご指定をいただくことがあります。
ただ念のために確認をしてみると、正しい菱目の数え方ではなく鮫皮が覗く菱形の数で指定をしていた、という場合が非常に多いです。誤った勘定方法で依頼をすると完成後の出来が自身の求めたものと異なってしまう原因となります。そこで、できるだけ分かりやすく菱目の数え方をご紹介します。
尚、柄巻にはいくつかの流派がありますので、本記事でご紹介をする内容とは細かな違いがあるかも知れません。これについてはあらかじめご了承くださいますようお願いします。
表方の菱目を数える
柄前には表方と裏方の向きがあります。このうち、菱目は表方の数を数えます。
尚、打刀・脇差・短刀の場合は縁金の付く柄口を右とし刃方を上にしたときに手前を向くのが表方(差表)です。また太刀の場合は柄口を右とし刃方を下にしたときに手前を向くのが表方(佩表)です。いずれも柄巻は表方から巻始めます。この巻始めは縁金の直下から柄糸を一文字に掛けるので一文字掛けとも呼ばれます。
菱目は巻留を含めて山を数える
柄糸は上糸と下糸があり、それぞれがX状に交差することで菱形の空きができます。菱目の数とはその菱形の空きの数ではなく、柄糸がX状に交差している箇所の数を数えます。柄糸がX状に交差している箇所のことを柄巻の職人の多くは「山」と呼びます。この山が捻巻なら捻り目、摘巻なら摘み目になります。
また柄巻の見どころの一つである巻留も1つの山として数に勘定します。
一文字掛けは半菱とする
柄巻の巻始めの一文字掛けは半菱として勘定します
まとめ
まとめると、柄巻の菱の数は以下の4点にしたがって数えます。- 柄前の表方を勘定の対象とする
- 菱形の空きではなく山の数を数える
- 巻留も1菱として数える
- 一文字掛けは半菱として数える
この方法で菱目を数えると、写真の柄前は15菱半だと分かります。
日本刀の各部位や特定範囲を示す用語は独特のため分かりづらいです。そのため独自の見解や表現方法になってしまうのも仕方がないかも知れません。たとえば刃渡りは切先から棟区までの直線距離を示しますが、「切先から鍔を含んで○センチ希望」と相談をいただいたこともありました。しかし専門用語には構造や理屈にもとづいた理由があります。現代は多くの情報を簡単にすることができる恵まれた時代ですので、分からない単語・用語に接した場合はぜひ一度、きちんと調べて正しく理解いただくことをおすすめします。
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